今回の叙序圓ギャラリーの作品は、鎌倉彫「南禅寺牡丹雲版」。
作者である堀野さんの所属する藤孔会では、皆伝試験の「俱利香合」に挑戦するまでに全部で13の教材を完成させることが課せられます。今回の作品はその最後の課題として提出されたものです。
雲版とは、禅宗寺で合図のために使用される楽器です。元々は鉄や青銅でできた雲形の板で、鎌倉時代に禅宗と共に全国へ伝わりました。
鎌倉彫ではしばしば雲盤と表され、必ずしも雲形ではなく大皿を裏返した形をしています。
地彫りが深く狭いデザインとなっていることに加え、少しずつ深さを変えるというとても繊細な技術が使われています。
その他の多くの部分は薬研彫りで構成されています。薬研彫りとは、線状の形を彫る際に薬を煎じる薬研の形状、すなわち断面がV字形になるよう彫ることを指します。鎌倉彫でこのV字を作る際に美術の授業で良く使用するいわゆる三角刀は使用しません。谷底が頂点となるよう正確に小刀を両側から入れてV字を作ることで、シャープで美しい谷底を形成できます。
上手くできた時にV字形状の切片が綺麗に外れる瞬間には、何とも言えない感動があるというそうです。
一方で上手く頂点が合わなかったり、刀跡がクロスして傷だらけの底面になった時の残念な気持ちも、この作品を見返すと思い出さずにいられないとのこと。
堀野さんが鎌倉彫を始めたのは木彫が精神統一やストレス解消に良いのではと思ったことがきっかけだそうですが、その代表的な作業がこの薬研彫りということです。
もしもその感動にご興味がありましたら、ぜひ皆様も木彫りに挑戦してみてください。
2023年もいよいよ年の瀬。皆様どうぞよいお年を!
【アーティスト紹介】
堀野 篤人
本業は機械設計技術者。伝統工芸鎌倉彫において教授会皆伝免許、押し花において日本ヴォーグ社のインストラクター免許を取得して、自然素材を用いた様々な芸術作品の創作に挑戦。海老名美術協会会員。
鎌倉彫は母である教授会師範の堀野孔翔に師事、その作風「構図を重視した絵画的図案に基づく木彫」の伝承を目指して雅号「研翔」を名乗る。
また押し花においては「押し花ノア」桐ケ谷恵美子先生に師事、花を育てる段階から一貫した作品作りを目指している。